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2011.07.23

布野修司『建築少年たちの夢』

むかしむかし。ぼくが卒論生として研究室で資料の整理をしていると、となりで、当時は助手であった布野さんがDの学生と議論をしていた。議論といってもかなり激しいもので、なおかつD学生のほうはがすこし年長でもあった。今となっては議論のテーマは忘れたが、そのときに布野さんの言葉をいまでもおぼえている。

「ぼくが建築の芸術性を評価できるとはおもってはいない。ぼくは文脈をはっきりさせているだけだ。」

・・・・というようなことであった。かっこいいなあ、とも思ったし、そういうスタンスがあるんだ、などとも思った。それはハッタリではなかったし、じっさい、布野さんはそのようにして膨大な言説を生産してきたようにおもえる。

卒論の指導をしていただいたり、議論をはたから傾聴していて、頭がいいということは、たんに記憶力とか演算速度とかの問題をこえた、べつのことだと、ぼくなりに理解できたような気がした。人は、ものごとを理解するとき、フィールド、経験、日常世界、情報世界のなかからその成り立ちを仮定するのであるが、図式的にいうと、世界をさまざまな事象に分節化し、X1、X2、X3、X4、X5....Xn...という変数を発見し、それから

Y=F(X1、X2、X3、X4、X5....Xn...)

・・・という方程式を考えるのだとおもう。この関数fが、構造、システム、関係性、ゲシュタルト云々であり、そして人は、変数X1、X2、X3、X4、X5....Xn...にそのときどきの値を代入して、いま・ここのY値をきめてゆく。布野さんはこの変数X1、X2、X3、X4、X5....Xn...やfを発見するのが人の数倍から数十倍速いというのがぼくの印象である。これはいいかえれば、なにか調べごとをしているときに、どういった項目を(しかもあらかじめ)押さえるべきか、その関係性Fはどうなのか、その課題構築いや課題予知能力なのだが、布野さんはそれがすごいのである。

いいかえれば現実を事前に認識するために、あらかじめ構図を準備しておくというようなことで、虚心坦懐に現実などわかるわけがない、というような、研究の世界にもすこしいえることである。

当時は構造主義がはやりであったり、実体概念から関係概念へなどといわれていた。布野さんの高速思考方法は、芋づるでも飛躍でもなく、つねに構図を導き出すのである。

ぼくは、彼が説明する順序や、ゼミのレジメなどの書き方をみて、その点に感激せざるをえなかった。短い期間のご指導ではあったが、ぼくが学んだ大きなポイントであった。

それから余談だが、布野さんは助手時代も手帳などというものはもたず、すべて記憶でスケジュール管理していたそうである。

また当時から、今風にいうとトートバッグのようなカバンを愛用されていたが、そこからとにかくありとあらゆるもの、意表をついたものが出てくる。ぼくたちは魔法のカバンと呼んでいた(さすがにドラえもんのカバンとまではいわなかったが)。

ひとまわり上の先輩というのはいろいろ神話があるものである。

本書では、安藤忠雄、藤森照信、伊藤豊雄、山本理顕、石山修武、渡辺豊和、象設計集団、原宏司、磯崎新が論じられている。はじめて知った事実がたくさんあったし、わくわくしながら読んだ。

ネットワークという言葉がある。とはいっても9人の建築家たちは、同時代人たちだが、結社をつくっているのではない。しかし友だちの友だちは、友だちである。さらにいえば、9人の建築家についてのモノグラフ集であるだけではない。9人は布野さんを介してつながっている。逆にいえば、布野さんという「媒介者」があるひとつの関係性として作用することで、9人の建築家たちがおりなす世界が、なにか算術的総和以上のなにか、立体的な組紐文様のようなものにおもえてくる。それは密に一体化しているわけではないけれども、生きられた、シームレスにつながっていたひとつの世界である。そういう意味で、書き手自身がストーリーに参加する方法ということで、書き方のスタイルとしても勉強になる。

だからY=F(X1、X2、X3、X4、X5....Xn...)図式において、Yがその「世界」で、X1、X2・・・は安藤さん、伊東さん・・であるとすれば、F(!)は布野さんというわけなのである。

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コメント

面白そうな本ですね。
私も比較的身近な所に布野さんの存在があったので、建築の青春時代の夢をこの本と共に思い返してみたくなりました。

投稿: ユーイチ | 2011.07.25 03:59

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