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2011.06.26

南明日香『ル・コルビュジエは生きている』

を贈っていただきました。ありがとうございます。

ル・コルビュジエの建築作品が世界遺産に登録されるのかいなか、注目をあびているが、本書は、ペサック、スイス学生会館、マルセイユのユニテ・ダビタシオンといったル・コルビュジエ遺構の後日談集である。

通常の建築史、あるいは建築家モノグラフと比較してユニークなのは、まさにこれらが後日談であるという点である。「通常」ではアーキテクトのアイディアや時代背景や、建設途上のいろいろな挿話で飾られた、つまり「建設にいたる」語りである。ところがこれは「建設後の」「建築家もいなくなったあと」の物語りである。でも内容充実の面白い本である。

たとえばイギリスにおけるパラディアニズムはパラディオ後史なのかもしれない。それに特化した文献もある。本書はそれにも近い側面をもっている。

もうひとつの特質は、日本から見たル・コルビュジエというより、フランス内的視点が選ばれているという点である。これは著者が意識してそのことを書いてもいるが、おそらく長い滞在経験をいかして、文献、シンポジウム、展覧会など情報収集の網の目をひろげて、かつ、地域目線で書いている。もちろん日本目線、日本的誤解が悪いわけではない。しかしル・コルビュジエが語られる現場の空気というようなものは、別個に報告される価値のあるものである。これもまた日本側の層の厚さを物語るもので、読者としてもたいへんありがたいことである。

たとえばロンシャンの建築における、レンゾ・ピアノに依頼して増築しようとする教会と、建築に反対するル・コルビュジエ財団の闘いである。これが暗闇の闘いにならないで、公開討論会、公開展覧会のようなかたちでなされたことが具体的に紹介されている。本ブログでもフランスのウエッブサイトからに引用でその件を紹介したことがあるが、やはりメディア経由では情報も不足しているし、臨場感までは伝わってこない。文化財をめぐる教会勢力と、文化勢力の歴史的な構図、などということは書けるのではあるが。本書では、その顛末をきれめなく紹介していて、たいへん読みごたえがあった。

文化財制度にも言及しているが、それが具体的建築作品との関連で説かれているのでとても具体的である。

ル・コルビュジエ財団成立のいきさつも詳しく書かれているが、1987年だったと思うが、ポンピドゥ・センターでのル・コルビュジエ展にくわしく触れられていない点だけは、なぜだろうと疑問である。そこでつくられたコンテンツが、以降の展覧会などにかなり流用されているようだし、なによりも87年の展覧会は、ル・コルビュジエ派の普遍化宣言、勝利宣言のようなものであったし、だからその後は包括的な新企画の展覧会はほとんどないのである。

ただそれでも、歴史と制度をしっかりおさえ、現場の空気を読めたうえで、建築の顛末をレポートできる人などそう多くはないのだから、こういう上質のレポートは続けてもらいたいものである。

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