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2010.12.08

比較建築史読解005 (4)フランス建築(史)後半

(前半からのつづき)

外国人として見ると、19世紀はゴシック研究の世紀、20世紀は古典主義建築研究の世紀であったように思える。オートクールは浩瀚な『フランス古典主義建築の歴史』(Louis Hautecoeur(1884-1973), L’Histoire de l’Architecture Classique en France, 1943-57)を書いた。あるアメリカ人研究者は、この研究を評して、百科全書的だがどこにコアがあるかよくわからないと言った。しかしイタリア・ルネサンスを吸収し、アカデミーという独自の研究機関で固有の建築理論を確立したという書き方は、古典主義をフランス建築のコアに据えていることは自明である。実際、ブリュケルリの最近の著作(Brucculeri, Louis Hautrecoeur, Picard, 2008)でも、第一次世界大戦のころオートクールがフランスの文化的アイデンティティをつよく考えていたとしている。

 ヴィオレ=ル=デュク、ショワジ、オートクールと読書を続けているうちに、ジャン=マリ・ペルーズ・ド・モンクロが1982年に出版した『建築におけるフランス的なもの』(Jean-Marie Pérouse de Montclos, L’Architecture à la française, 1982)が、奇妙な重要性をもっていることに気づく。そもそも日本人にとってはなぜこの時期に彼が「国民的手法 manière nationale」を問いかけるのは、すこし不思議ではある。彼は初期中世にまで遡り、フランス的工法が言及された例を示す。ゴシックは、12世紀末のカペー朝におけるパリ近辺の「地方様式」が、ヨーロッパ各地に普及し、国際様式化したものであった。ゆえにゴシックはフランス起源であり、かつドイツやイギリスの国民様式である。それと同じように、古典主義は、ヨーロッパ諸国民を融合することもできるが、各国の様式でもありうる。そして彼は、ゴシック建築では「石工術 maçonnerie」であったものにたいして、古典主義では「截石学(ステレオトミー) stéréotomie」だとして、後者をフランス的なものの中心にすえる。それによってヴィオレ=ル=デュクの中世研究を排除するのではなく、それを包含しつつ、乗り越えようとしたのではなかったか。石造構造は中世で終わったのではなかった。ドロルムは、石工の技術を人文主義者の目から明らかにし、ロンドレはそれを極みまで発展させた。このようにモンクロは、19世紀のゴシック研究を否定せず、むし類似した手法をつかって、古典主義を普遍化しようとした。

 いずれにせよモンクロは、ゴシック/古典主義、ヨーロッパ的/国民的を、分断せず和解させながら、フランス的なものの概念を定義づけるのであった。

 日本において通史が書かれないいっぽうで、フランスではロワイエとモニエの著作が出版された。フランソワ・ロワイエは『フランス建築の歴史(3)革命から現在まで』(François Loyer, De la Révolution à nos jours, Menges, 1999)のなかで、建築を支えていた社会的基盤が革命によって失われ、変質したことを述べている。しかしそれでも歴史は現代まで書かれている。革命からの2世紀は「近代性modernité」の歴史として描かれている。政治、社会、技術、思想と理論を基盤として建築がつくられてゆくという記述は、普遍的なスタイルであり客観的であるように見える。彼もまた、歴史の亀裂を指摘する。古典主義は社会システムを反映したものであったが、それに反抗するように19世紀のモデルニテは立ち上がった。17世紀、ゴシックと古典主義を統合し、そこから新しい文明をつくろうという動きが始まった。モダン文化を私たちのアイデンティティに組み込まねばならない。とロワイエは結論づける。モニエも『フランスにおける近代建築』(1997)(Monnier éd., L'Architecture moderne en France 1-3, Picard, 1997)のなかで、過去の1世紀を扱っている。日本に建築の大学ができて、西洋化した時期とほぼ重なる。叙述のスタイルは、稲垣栄三のそれにもっとも近い。技術、制度、政策、経済、建築理論、運動、それらの総体として建築が展開するが、そこにはとくに終点は示されていない。ではなぜ日本では、戦争によって歴史が終わるのであろうか?【つづく】

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