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2010.11.07

『近代都市バルセロナの形成』

を読んだ。いちおう都市史に分類されるかもしれないが、西洋史学、経済学、社会史、建築史、美術史といった専門をたばねた多角的な論考におおいに期待するものがあった。さらに近年、西洋史では、グローバル化という情勢に反応して、交易ネットワークとしての西洋都市にかんする成果が多い。そういう趨勢のなかで書かれた文献である。

そういう文脈からいちばん面白かったのは、とくに18世紀、19世紀にアメリカ大陸やキューバとの貿易で巨万の富をあげたという点。「インディアーノス」と呼ばれる、アメリカ移住で成功したのち富をもって帰国した人びと。彼らのうちのあるものは、バルセロナで産業を興したり、セルダーの都市計画フレームのなかで土地投機をおこなったり、地域の名望家となってゆく過程がおもしろいし、西洋史的分析のコアである。貿易商人・産業家たちが富豪となって、産業革命をおこし、近代都市計画を支え、ガウディなどの建築家のパトロンとなり、カタルニアの近代芸術を開花させたというきわめてわかりやすいストーリーが描かれる。

バルセロナのグリッドプラン都市計画を策定したセルダーも、アメリカ新大陸でのスペイン植民地都市計画を理想化して考えていた点など、生々しい。

すこしまえまで日本では、西洋のユートピア思想は、産業社会論や労働者住宅論などと関連づけられて語られていたが、当然のこと、ユートピア=新大陸植民都市、はあってしかるべき軸である。大陸での都市計画が、戦後、日本国内に還元されたというような視点と同じである。つまりセルダーのグリッドプランは、たんに合理性とか社会性ということにとどまらず、世界交易における普遍的都市像というように考えると、逆植民都市的でもある。当時の支配層はひょっとしたら今日以上のたいへんグローバルな意識をもっていたであろう、そういう人びとの都市ビジョンとして考えると面白い。

それからバルセロナのみならず、21世紀の都市としてその手腕が注目されているのは、マルセイユであったり、ボルドーやナントであったり、つまり交易都市→産業都市→創造都市というように、産業構造の大転換をきわめて大胆におこなって、成功しているような都市である。

現地におけるセルダー再評価というのも最近らしいので、バルセロナにかんする日本語文献ではかならずそれがとりあげられる。ただそれはもういいのかもしれないし、動態で考えれば、大胆に構造転換してゆける資質がもし都市にそなわっているなら、それはなんであるか、を知りたいものである。それは地勢とか、ネットワークとか、コンパクトとか、クリエイティヴとか、手法を云々するまえにそもそも都市にそなわっているなにかであろう。

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