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2010.10.18

TOKYO METABOLIZING

・・・を北山恒さんからいただきました。ありがとうございます。

ヴェネツィアビエンナーレ日本館の展示のための図録である(ようだ)。

展示は北山恒さん、塚本由晴さん、西沢立衛さんの住宅作品を並べたものであるが、それらをとおして東京という都市の姿を語るものとなっている。

パリが君主の都市、ニューヨークが資本主義の都市、であるのにたいして、東京はメタボリズムの都市なのだという。3都市の航空写真が並べられている。私見では、パリは1ブロック=1ボリューム=マルチスペース、NYは1ブロック=1ハイライズ(2~3はあっても)、東京は1ブロック=マルチボリュームである。結局のところ、パリは中世以来のゲルマン法的規程で、戸境壁は両隣の共有壁であり、壁というソリッドではあるが、その空間は共有されていて、諸空間は密実につまっている。東京は、近世の中下級武士の住まいがパターン化されて、近代の戸建て住宅となり、ボリューム(建物)はすかすかに並ぶことになる。

そう考えると、それが都市のOSであるとすれば、OSは都市計画法とか建築基準法のさらに下層の基底にあるものである。事実はというと、そうしたOSにあわせて、法制度や建設産業というアプリが形成される。こんどは法や産業が自律的に肥大化し、問題があっても、なかなか変更できないものになってしまい、OSをバージョンアップすることを困難にしてしまう。このような事情から、OSは社会制度全体がおおきく変化しても、かなり一貫したものとなってしまう。

3人の建築家はたいへん独創的な住宅を展開しているが、しかし無節操にそうなのではなく、自覚的にせよ無自覚的にせよ、この都市のOSを顕在化させ、それをほりおこし、それに注釈をくわえたり、あるいはその最後の可能性を搾り取ろうとしているような気がする。

西沢さんの《森山邸》はいわば「はなれ」であろう。かつては同じ敷地に母屋といくつかのはなれがあった。この「はなれ」をいくつか集めたのがこの邸宅である。住人それぞれが独立ししかし依存も可能な、つかず離れずの生活をおくる。孤立したパヴィリオンではなく、なにかに依存しつつしかし縁は切っておくという微妙な距離感。しかしここで面白いのは「母屋の不在」という点であろう。それは「中心がない」というよりも、もっと強い中心の拒否であるように思える。ぼくはこの森山邸は、そのように母屋の不在によって、それとははっきり示さないのに、強くて決定的な欠落感を与え、しかしその欠落感そのものに批判的意味があるような、そんな逆説を感じる。

ぎゃくに塚本さんのものは、住宅でありながら、複合的であることに意義があるようだし、その複合性のありかたに彼の思想があるように思える。専用住宅ではないさまざまな用途を吸収した住宅であるとともに、境界条件から演繹して設計したものであるがゆえに、きわめて都市と連続的であり、状況を反映したものとなっている。しかし同時に、これが母屋的かというとそうも思えない。全体性はしいて求められていない。やはり欠落感がある。それは都市の断片であることをクールにわりきっているようにも思える。

欠落が悪いといっているのではない。ぼくがかつて村上春樹『東京奇譚集』が欠落のものがたりだと感じた、ついでに伊東豊雄《中野本町の住宅》にも感じるといった、そんな欠落感に近い。

不動産の証券化というreitなるものがかつて話題になった。きわめて流動的な空間の共同所有である。しかし考えてみれば、日本の都市は、究極的には社会的共有物であるはずの土地=空間の総体を、私的所有権の絶対性という枠組みで、細分化し断片化し、個々の所有者に分配した。それが地主であり、本書のなかで言及されている東京の180万人の土地所有者たちである。彼らは個々には絶対的所有者であるが、全体としてみると社会的総空間の共同所有者といえなくもない。

それはそうとして地主たちは、それぞれ所有者にして消費者となって、住宅を建設する。その消費行為が、ライフスタイル、建築家のチョイス、建物の構成やスタイルの選択となって現前するというようなことが図録で主張されているのである。

ということは東京の、とくに戸建て住宅地で露呈しているのは、消費行為のあられもない顕在化ということになるのだが、これもつきとめてゆくと半世紀以上も繰り返されてきた日本都市批判のようなことに戻ってしまう。のであるが、本書が違うとすれば、その消費行為を文化のレベルに高めていこうというような姿勢が見られるというようなことであろう。なにごとにも救いはほしいものなのだから。

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