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2010.10.29

ユリイカ特集『電子書籍を読む!』

2010年は電子書籍元年。8月号なので、ずいぶん遅れて読んだ。ティーブレイクと往復の電車のなかのお伴であった。

正直言ってがっかりした。もちろんユリイカだからたいへん高尚なことが書いてあるし、メディア論の講習を受けたきになるし、出版社は広告収入でなりたっているとか社会勉強もできた。出版業界も縮小しつつあるなかで、しかし公共図書館はどんどん増えているなど、勉強になった。

でも書き手はほとんど業界のひと、あるいは書物の送り手たちである。彼らはこの業界を支えているひとたちだから、出版界やIT界がどうなってゆくのかを真摯に問うてはいる。

でも書物の受け手のことは考えていない。この特集の書き手のなかには、読者=書物の受け手を代表する人はひとりもいない。

唯一読者にふれたというのでぼく的な興味に引っかかったのが桜坂洋さんの「本の未来」であり、「ソーシャルリーディング」とかいうテキスト、アンダーライン、書き込みなどを共有するやり方とか、アップル、キンドル、グーグルなどがそれぞれクラスタを構築し、それぞれのクラスタがあるライフスタイルを提供し、読者はいずれかのクラスタにしだいに囲い込まれてゆくというストーリーはおもしろかった。とくに後者は、20世紀の私鉄会社が、鉄道、住宅地、駅前商店街などを提供することでライフスタイルを構築していったことを思い出させる。これはとても面白かった。

特集中の多くの論文では萌芽的にしか書かれていないが、読者的に知りたいのは、ジャンルによって電子書籍は進化のしかたが違うであろう、というようなこと。(1)新聞・雑誌は広告料収入の減少で退化する?すでにぼくは7年前から新聞をとっていない。(2)学会論文集は、ずっとまえから電子投稿、電子審査、電子出版であるし、学問という閉鎖系では機能的に成立できる。(3)文学は、ストックとフローの関係でいうと、ストックがしっかりしていて、儲からないであろうがなにかしっかり感はある。(4)専門書・実用書は不細工なものであり書架の装飾にはなりにくいので、どんどん電子化すべし?(5)スポーツ紙などは動画をまぜたハイブリッドなものになるんでしょうね?MLBにアクセスするのはなぜかたるい。(5)マンガは?(6)iPadのような普遍的プラットフォームのなかで、ほんとうに映画、アニメ、マンガ、小説、専門書などは一元的コンテンツとなるかどうか?・・・などなどを教えてもらいたいものです。

ぼくは業界のことはしらないし、情報の専門家でもないので、逆に、アレクサンドリア、ムンダネウム、といったそれこそ人類全体の知のストックという次元で検討している専門家の話しをききたいものである。

それからまったく卑近なレベルであるが、iPadが電子情報を身体に近づけたというのであるから、電子書籍ならではの理想的書斎なんかも構想してほしいものである。これは近世の書院造、近代の小図書館型の書斎、につづく第三のタイプのことである。

ぼく自身はとても怠惰で保守的なのであろう。情報インフラの恩恵をうけているにもかかわらず。双方性など関心がなく、書物は届けられるものだし、いっそのこと神から配布されるものであったほうがいい(グーテンベルグの技術は聖書を普及するのに役立った)。人間どうしでちまちま交換しているというのはイメージ的にどうかな。神や、異界から送り届けられる贈与といった演出が欲しい。日本の図書館は充実しているので、ぎゃくに書籍の公共的共有にも興味がはなく、自分の蔵書という、排他的個人所有にしか関心がない。

大人数で同じ場所で同じコンテンツを楽しむといっても、スポーツ、オペラ、コンサートなどとちがって、たとえば映画は相対的に孤独な楽しみ方である。同じようにグーテンベルグの発明によってなにが変わったかというと、情報が広く伝えられるのと(反)比例して、人間は「孤独になる権利」を得たのではなかったのだろうか。もっというと、読書という孤独なことをやっていても、ちゃんと人類の知にリンクされるので、究極は普遍的なものと繋がっているという立場がえられた。ぼくが好きなのはそんなところです。古い人間ですから。というか孤独を経由しての普遍が好きというのは、類型としてはカトリック的というよりプロテスタント的なのかなあ。

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