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2010.04.14

「電子書籍元年を迎えて」

という記事が『週刊読書人』にあったので、目をとおした。原稿書きをしていて、仕事からの逃避でつい読んでしまう。『書物の変』の著者と『紙の本が亡びるとき?』の著者が対談している。

キンドルやアイパッドの登場でいよいよ現実的になった電子書籍である。とはいえ紙の書籍に、電子媒体がとってかわる、というのでは電子情報独自の形態であるとはいえない。そこが変なところで、電子情報ならHPやブログやtwitterや、それから近未来にでるであろう新しい形態がふさわしい。しかし電子情報にはふさわしくないはずの、紙のメディアにとってかわろうとするのである。ということは電子/紙というのではなく、出版業界、図書館制度、書籍というパッケージ、販売制度、権威づけ、著者の署名という制度の問題、なのであろう。

ということで中身はやや業界話しじみている。フランス国立印刷所が2006年に閉鎖されたという象徴的なエピソードが冒頭で飾られている。この印刷所の労働組合はEU批准のときに反対したそうで、つまり自分たちの仕事がチープレイバーの他国にとられることにたいする組織的懸念である。

また活字/オフセットということも説明されていて、電子でもないオフセットでもない、活字文化がそれこそ伝統芸能的に保存されるであろうとか、中国政府がグーグルを排除したことが漢字文化の保護として価値があるとか、いろいろな視点が提供されている。

過度の電子化ということから教育を守るために、重要書籍の一章を手書きで書き写させるという写経メソドをしているというエピソードも披露された。使える手ではあるが、大学でそんな教育法をしているなどというのは、あまり尊敬される話題ではない。

まあそれもいいのだが、ぼくとしては、「個人がいかに紙の書籍やら、電子ブックやら、WEBやらを総合的にカスタマイズするか?」ということが庶民にとっての最重要課題であり、それが上からの情報革命にたいする下からの(反)革命になると思うのだが、そういうことにかんしては、この記事のみならず、あまり触れられない。

電子書籍は安価だから、安易な庶民はみんなそれに流れ、出版社はつぶれ、業界は再編されるだろう。でもそれは業界の問題であるのであって、読者最優先と仮定すればどうなるか、などといった思考実験をどなたかしてください。

蔵書家の武勇伝がある。蔵書に財産をつぎ込んで、妻はあきれて離婚してしまい、自宅におけなくなったので間借りして・・・云々の話はよくきく。予定調和の学者であっても、晩年は書庫付き戸建てを建てるのが団塊世代のパターンである。デザイン史の大家は、平屋住宅で母屋とつかずはなれずの書庫+書斎を構えていた。タンポポハウスには建築雑誌には紹介されていない地下の大書庫があるという噂である。RCで自邸を建て替えた大教授も一階がほとんど図書館の書庫のようなつくりである。戦後日本が国家政策として推進した戸建て持ち家政策をそのまま実現している。その意味ではすごい。

ただし後の世代はそこまでのリソースを文献につぎ込む余裕がない。書籍だけで数千万円から1億円超、そのための書庫に半額から同額の地代+建設費の投資。そういうことはパワーのある例外的なお方だけがやればいいことで、だれもかれもやりだすと、社会全体としては無駄な資金を無為につぎこむことでしかない。

ああ、お金の話しはいじましいからやめよう。記事のなかで、活字ももともとはベンヤミン的なアウラの欠如した複製技術の産物であったが、オフセット化、電子化のなかで、アウラをもつものとして再評価されてきているのだという指摘があった。つまりある情報が、輝き生き生きとしてかけがえのないものに感じられるのは、紙、媒体、というものとは無縁であるということだ。情報と人間(の脳)との関係で決まる。それを考察するのは、読書する側の論理である。したがって紙、ディスプレイなどの媒体をまえにして「個人がいかに情報環境をカスタマイズするか」のスタイルを、本質論として考えねばならない。

つまりグーグルが実現しようとしているのは、古いかつての夢にすぎないのだが、その普遍図書館なり世界図書館なりバベル図書館のなかで、人はどうそれをカスタマイズするかということなのだな。それを教えてください。

自家用車が出始めた頃。ミュールーズ市にある自動車博物館を見学したとき、1907年(?)の1年だけ、フランスはアメリカよりも生産台数が多く、世界一であったそうだ。当時のポスターを見ると、車によって豊かになる生活というものについて、きわめてはっきりしたイメージがあったことがわかる。徳大寺氏が、日本の車産業はスペック指向でありライフスタイルのイメージがないという、そのとおりであった。文献もそう。

なぜかっていうと、こんなことを書いているぼく。今、ありがたいことに今年出版されるかもしれない文献のために原稿を書いているのですよ。紙の文献が手元にありまして。それから電子書籍もちゃんとつかっています。WEB情報も使っています。でもなにか決定的ななにかが不足しているんだな。専門家のかたがた、業界向けもいいけれど、個人のライフスタイルも考察してください。

原稿を書いていると、かならず、こんな逃避的脱線をしてしまうのであった。

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