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2009.11.04

レヴィ=ストロース

『悲しき熱帯』や『構造人類学』の著者が亡くなった。100歳であったという。

専門家たちはいろいろ解説するであろうから、専門的な解説はしない(できっこない)。

実存主義のサルトルを論破したことがよく指摘される。その事件もリアルタイムでそんなに紹介されたのではないが、ぼくたちの世相をすこしは反映していたように思える。社会に異議をとなえた世代がどれだけサルトルを読んだかしらないが、この世代がアンガージュマンすなわち今日流でいえばコミットメントの世代であるとすれば、そのサルトルを徹底的に批判したのがレヴィ=ストロースであった。彼自身は人類学者として理論家として一流であるにとどまらずフィールドの人、現場の人でもあったが、それを構造として分析することにおいて対象との距離のとりかたが際立っている。ぼくの世代はその距離感において共感をいだいたのであろう。これは時間がたってかつての自分自身からも距離をとれるようになったのでいえることである。

やはり『構造人類学』は必読書であった。とはいえぼくの世代のなん%が読んだかまったく知らない。かつての『資本論』もそうだったのであろう。ただ必読書となんの迷いもなく思い込めたのではあった。

もちろん1970年代の日本にあって、明治100年を祝ったあとで、もはや先進性/後進性という枠組みをいつまでも続けることもないという空気で、野生と文明をおなじ平面で論じる論じ方に共感があったのも事実であろう。彼がフィールドでスタディをしたのが1930年代というから、日本における民俗学研究などと平行関係は推測できるが、でも射程がちがっていたようである。ちなみに1935年にサン・パウロに移動してからということになっている。今日では、19世紀以来のフランスの植民地政策、とりわけ文明/野蛮という啓蒙主義以来のフランスにおける根底的な文明観との相関において彼の思想を位置づけたいものである(ぼくはその能力はないので専門家におねがいしたいものである)。つまり植民地支配に関する研究も今展開途上のようなのである。

『構造人類学』を約25年ぶりにめくってみると、歴史学、言語学、人類学、社会学などの横断的論考、さまざまな先行する学者たちの批判的継承などにかんする論考が印象的である。つまり彼も出だしはとんがっていて、野心的であったのだ。ちなみにヴィシー政権時に亡命していたニューヨークでのヤコブソンとの出会いが大きかったようだ。

ぼく自身はたいへん興味をもって『構造人類学』を読んだとはいえ、発想法を借りるにとどまっていた。読書会仲間のなかには、そこから日本の民家研究に進んだ人もいた。また東南アジアの文明化されていない集落の調査などというほとんど命がけの冒険(イカダにのって島々を遍歴するなどという)にのりだした友人もいた。

読了後はけっこうレヴィ=ストロースの具体的な理論など忘れてしまうものだ。しかし乗り移ったのはそういう「熱気」なのかもしれない。レヴィ=ストロースは23歳で「原住民社会のなかで生きた経験」がしたいという情熱にとりつかれたのである(WEB版ルモンド紙の追悼記事)。その熱気が中年になって著作をまとめるときもずっと残っていたのであろう。外国の、世代も違う読者が感化されるのはようするにそういう事柄なのであろう。

ぼくはとえいば、建築を論考するにあたって彼のような構想力をいだきたいと思ったにすぎない。党派的な対立の一方をかつぐとか(いまでもモダンとか反モダンとかあるし)、10年単位でどうこういうことは、やりたい人にまかせておけばいいことである。しかし日本の社会にはじつは近世の構造が生きているように、啓蒙主義もまたグローバルな文化政策のなかで生きているし、200年前のものでも同時代である。

前回の投稿にあわせていえば、稲垣栄三が日本の建築保存を語るにあたって、日本的文脈をじつはほとんど無視していること、明治以降の法制度にはほんとんど触れず、おもにラスキンとヴィオレ=ル=デュクから出発している(ぼく的にはまだまだという気がするが)ことは、保存を論じるにあたってなにが普遍的な出発的であるべきかについて、彼なりの判断があったのは明らかである。彼が論じなかったことは、当たり前で常識だから論じるまでもないと考えたのではなく、論じてもしょうがない、そこに哲学や思想はないと考えたからではないか。ある意味、稲垣は徹底的にそして冷酷に貴族主義であった。しかしそこに後の世代の者たちが真摯にうけとめなければならない点があるように思える。

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