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2009.11.24

NAME SAKE 帝国建築

NAME SAKEというタイトルの映画をDVDで見た。

若いインド人エリートカップルがアメリカにわたってキャリアを積み、息子と娘をつくって、インド人コミュニティ参画も怠りなくやっていたが、夫が心臓発作で亡くなり、未亡人がインドに戻り、子供たちはアメリカに残り・・・という物語である。

故郷をすてて東京にやってきた若夫婦が、年をとり・・・という物語りのスケールをおおきくしたようなものである。

興味深かったのは息子である。里帰りをしてアグラ、タージマハールなどのムガール王朝建築を観光しているうちに、建築を志す、というくだりである。母親は「わが家のシャー・ジャハーンね」などと一言。父親は「エンジニアはどうするんだね」と小言。「建築は芸術にして工学なんだ」と息子(定番セリフである)。結局、息子はNYで設計事務所勤務となる。

自分のルーツに帝国建築があった息子は幸運であった。

そういえば20年前、インドを旅行していたことを思い出した。サンチーのストゥーパを見ていると、ちかくで日本語の親子喧嘩がきこえてきた。「ぼくはインドに家族旅行なんてはじめから反対だったんだ」などという少年の声。そちらを向くと、日本人家族とおもったものはインド人家族であった。ようするに日本で生まれたか育ったかの子供たちに祖国の伝統を教えるために帰省していたのであった。この少年は建築家などにはならなかったであろう。

NAME SAKE の主人公はめでたく建築家になったが、彼がNYの設計事務所で担当していたのは住宅であった。ムガール朝建築のようなモニュメントではなかった。とはいえこの映画の主題は建築ではないので、これはどうでもいい部分である。ちなみに原作の小説では、主人公はカーンが設計した美術館などを見学しているという話しをきいたことがある。原作者のほうが映画監督よりも建築通であったようだ。

それはそれとして、見る者を感化する力をムガール王朝の建築はもっている。ラッチェンスのインド総督府などはやはり帝国的建築以外のなにものでもない。コルカタにあるビクトリア・メモリアルなども、細部はヨーロッパの古典主義だが、全体のモニュメンタリティは、古典主義的というよりインド亜大陸的である。

さらにいうと20世紀初頭には同様な帝国的建築がみられる。たとえばワシントンDCは、基本計画はもっとまえとはいえ、1910年代に巨大建築ラッシュとなる。ソ連でも、第三帝国でも巨大建築への指向がみられる。

こうした巨大建築は時代を反映したものなのだろうか。ぼくはそうは思わない。20世紀は小さなものの世紀である。小さなものが大量に生産される世紀である。だからその時代に帝国的な造形がもとめられるという現象はとてもアナクロニックなものである。そして20世紀はもともとアナクロニックな世紀だという気もしていて、そういう意味ではまさに20世紀的なものということもできるのではあるが。

つまり19世紀に世界を支配し、植民地を支配した国は、国民国家であった。こうした近代の国民国家は、しかし、ムガール朝、サファヴィー朝、オスマン朝などといった帝国の建築を、再発見する。つまりすでに熟知していたはずのものを、こんどは支配者の立場から、まさに「再発見」する。20世紀初頭にきわめてアナクロニックに帝国的建築が登場するのはそういう構図においてであろう。

しかし政治的・植民地的に支配はできても、むしろ建築のほうは手強かったのではないかったか?

インドではル・コルビュジエもプロジェクトを残している。チャンディガールの州首都計画である。これは完全な失敗である。亜大陸の圧倒的なスケールを前に、彼のモデュロールは完全に破綻していた。というより意味がなかった。そのランドスケープを制御できず、対抗さえできていなかった。

インドでのルイス・カーンはそこそこうまくやっていた。カーンは、建築的スケールでは対抗できないことを知っていたように思える。彼は自分の建築を控えめなものとすることで、亜大陸のなかでの位置づけが可能なようにしている。

・・・いろいろ考えるとモニュメント/非モニュメントの矛盾の構図が20世紀的なのではないか。日本でも、草庵茶室という非モニュメントを建築モデルにしようという一派があったいっぽうで、東大寺などの大建築をモデルにしようという一派もあったように。

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