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2009.10.07

虚構/リアル

近代日本の建築は、この虚構/リアルという対立軸で成り立っていたように思える。

それをめぐって人と人はあらそうことはある。が、業界としてはその対立軸で繁盛する、そんな良くもあり悪くもあるような構図である。

虚構として成り立つ、虚構によって成り立つ建築とは、なにか?

たとえば日本固有の国民様式はなにか、というような議論の仕方である。すでに登場したさまざまな建物の共通項を探るのではなく、これから国民様式をつくろうというのである。ほとんど虚構宣言である。1930年代に確立した日本的なものの美学もそうである。美学によって日本というものを再編成して、その輪郭をはっきりさせようとうものであった。

丹下健三先生も、一貫して日本という近代国家の肖像を描こうとしていた。皮肉なことに、代々木オリンピックプールのいきさつで、この近代と伝統を止揚した傑作のゆえに、日本国内機構から疎外され、海外に重心を移す。海外の作品は、方法論的に一貫していうがゆえに、矛盾の止揚という彼の戦前からの美学が発揮されないものとなった。磯崎新さんは、東西の建築を広大な芸術空間としてとらえ、その融通無碍な文脈のなかで建築を位置づけ、意味づけることで建築を成立させた。もちろんその芸術大陸は、日本の現実とはほとんど関係のないものであった。しかしその虚構の豊かさはだれも否定できないものであった。山本理顕さんも虚構については自覚的であり、近代家族は制度的に構築された虚構である(つまりそうした家族は人間の自然状態ではないというあたりまえだけれど他者からは共感されないことを主張していた)ことを徹底的に自覚することから、その空間をつくっていった。

このように虚構は建築にとって必要不可欠であり、虚構こそが建築であるとさえいえる。それは現実をときに超えたり、現実の背景にある見えない構図を明らかにすることに意義がある。だから虚構であることが非難されるのではない。

建築とはそういうものなのである。

いっぽうリアルなものとはなにか?

こちらははっきりと劣勢である。その可能性はじゅうぶんに開発されたとはいえない。今の時点でリアル的なものに属すると思える例を2・3あげるだけである。

伊東豊雄さんはそうだと思う。彼が、風、海中の藻、森、などとメタフォリカルに建築を語るとき、それはかならずしも詩人の語り口ではない。いわゆるイメージではない。彼にとってはおてもリアルなものであるはずだ。想像するに、彼は建築家としてさまざまな具体的なスタディはもちろんするのであろう。しかし彼はそうした錯綜したスタディは、多元的で複雑だから、最終的にはひとつのアナロジーで表現するしかない、と考えているのではないか。でも現実というのはそういうものではないか。

たとえばいま台風18号が脅威である。しかしこの「台風」は実体ではない。それは太陽活動、海流の温度と動き、水蒸気の量、など多数の要因の結果として、それらのより具体的な実体の錯綜した影響のひとつのあらわれなのであろう。

だから逆説的に、伊東さんが風や森に言及するとき、それはメタフォリカルであると同時に、とてもリアルなものなのだ。だって嵐や、自然現象は、とてもリアルなものだ。ただそれはひとつの実体ではなく、さまざまな複雑系からなる多様な要素がもたらす「あらわれ」なのだ。建築もまたそうした、さまざまなリアルなものが、複雑にからみあって、まったく高次のべつのあらわれかたの「リアル」となるとき、それは風や森なのであろう。

同様に、葉祥栄さんもそうであろう。光、風、重力によるたわみをそのまま建築の形態とする彼は、伊東さんとは違うけれど、べつのかたちのリアルから出発している。葉さんが出発点にすえるのは、上記のような虚構であったことはいちどもない。いっぽうでリアルといっても、むかしのリアリズムのようなまったくベタな現実密着ではなく、とても分析的でもある。それは物理学者が、自然現象の法則性を発見するときの、理論的であると同時にロマンティックでもある姿勢、そんなことに似ている。

最後に、これは予感であるが、ロストジェネレーションに属する若い建築家たちも、このリアルな方に属するのではないかと思っている。

とはいえ自分より若い世代の建築家たちを批評するのはどうもはしたないと思っているので、一般論として、あるいは歴史的考察としてのみ述べるだけにしたいのであるが。

いずれにせよ虚構への意志は最近はかなり弱くなっているような印象である。リアルの時代なのだろうか?

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