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2009.10.29

クルフト『建築論全史Ⅰ』

建築論のトータルな歴史(その1)ということで、ど真ん中の直球のような文献である。

最近は中間管理職的な仕事がおおく、専門書に飢えていた。だから2段組430ページもいっきに読んでしまった。

すこし解説すると、建築論というのはこの場合、古典主義建築とほとんど同義である。その流れを古代のウィトルウィウスから18世紀の啓蒙主義の時代までを論じている。著者が選んだ主要な建築書を、一冊々々丹念に解説するようなやりかたである。

読了しての印象はというと、面白くない。

ウィトルウィウス論にしても、ルネサンス論にしても、もっと知的で深くて広がりのある建築論解説はもっとたくさんある。これまでも書かれてきた。そもそもウィットカウアの著作など、それこそ建築論トータルを征服しようというものであった。でもこの書は、一冊々々の誠実な解説といったものである。副題に「建築論事典」とあるから、ああそうかと思って読めばいいのかもしれないけれど。

築城術にかんする章も、代表的文献を目配りよく紹介しているが、そこにとどまっている。そもそも築城=国家による領域支配なのであって、大砲の技術的進化も決定的であろうが、それよりヨーロッパ大陸内部での支配地の拡大や縮小、それを反映しての国土意識の変化、ひいてはランドスケープ意識の成立、あるいは植民地支配といったヨーロッパ世界の拡大、という文脈において今の研究者たちは論じているはずだ。どうも視点が現代的でない。

いい意味で批判的な意見としては、ブレやルドゥのプロジェクトが「革命建築」とされるのは誤解だというくだりである。そもそもカウフマンはフランス革命とロシア革命をパラレルに論じたかったので、ブレらの建築=ロシア・アヴァンギャルド、という強引な図式をもちこんだのであった、という。なるほどよく見ると革命建築とされるものは、むしろ18世紀の爛熟した、しかしデカダンスに満ちた、社会を反映しているのである。

こういう偏見はあまりよくないかもしれないが、原著はドイツ語で書かれていることがポイントである。古典主義というのは、イタリアとフランスが中心であり、イギリスやスペインでさえ傍系である。そういった建築論=古典主義を、ゲルマン的文化を継承してきたドイツ文化圏から論じるのである。

だからよくいえばバランスがよい。イタリア、フランスだけではなく、オランダ、ドイツ、スペインなども論じている。しかも主要国からの影響だけでなく、オリジナルな論考がそれぞれの国にあったことが指摘されている。こうした構図ではイギリスも最後に論じられるだけで、従来の各国の文化的ヒエラルキーが若干覆されている。つまり古典主義を論じるわくぐみをかなり広げているのであって、これはクルフトだからもちえた視点であろう。

とくに建築オーダーはやはりイタリアで確立されたが、フランスには「フランス式オーダー」を確立しようという試みがあったように、ドイツ式オーダー、スペイン式オーダー、英国式オーダー、さらには源泉においてはソロモン(神殿)式オーダー、チュロス・オーダーもあったという考察もあったことが、紹介されている。

しかし古典主義=建築論を論じることの難しさはそこにある。つまり建築論はそれじたい普遍的であろうとするし普遍性を求める。そしてクラフトは、古典主義はたしかに普遍的であって、イタリアが中心としても、フランス、ドイツ、スペイン、イギリスにも独自のオリジナルな探求がある。しかし結果として描かれているのは、××式オーダーというような個別の現象である。もちろん普遍にして個別だなどということもできるであろう。

しかしそれでも普遍性を求める「理論」がここでは相対化されていることも否めない。結局、古典主義の良質の部分もまた、フランスにおけるアカデミズム、イギリスのおけるホイッグ党、スペインにおけるフェリペ2世宮廷といったバックグラウンドとの相関で語るときに魅力的なものに映る。

そうすると「理論」(普遍化をめざす)の「歴史」(相対化をめざす)などということがそもそも可能なのか、とも思えてくる。

でもまあぼくの関心を刺激していただいたのだから、文句というより、感謝のつもりでいったまでである。

誤植は若干あるが(人のことは言えないかもしれませんが)、読みやすい翻訳である。Ⅱ巻は19-20世紀に関してであろう。それも読みたいものである。

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