« アンキャニーな輪郭 | トップページ | 「歴史的建築リストの可能性」 »

2009.08.27

「海から見た都市と建築」

仙台で建築学会大会が開催されている。

標記はそのパネル・ディスカッションのひとつである。建築史の専門家が中心となって集結し、この大テーマを論じていた。多士済々の面々がさまざまに論じながら、聴衆のひとりであったぼくは、連想が連想を呼んで、あらぬことなど考え始める。

まずは網野善彦のことなど。彼が海/歴史について論を公にしはじめたのは90年代からであるが、先駆的には80年代にはすでに主要な論点は、とくに歴史畑ではない若い学生にも知られるようになっていた。早い物好きの若者たちには、網野文献は隠れた必読書にもなっていたように記憶している。

それと起源において直接繋がっているわけではないだろうが、ヴェネツィア研究で有名なJ現教授のD論を、研究室で聞かせていただいたのがやはり80年代初頭であった。身内限定の発表会であったので、裏話まで聞かせてもらって、やけに面白かった記憶がある。それは地中海世界の広がりのなかで、イスタンブール(コンスタンティノポリス)、カイロなどとのネットワークのなかで、いかにヴェネツィアの都市と建築が成り立っているかというものであった。

とうぜんのことこれらふたつの体験は、地下水脈のなかで繋がっていたわけである。

ただパネル・ディスカッションそのものは、そういうわけで、30年前の問題意識からほとんど変わっていないという印象であった。もちろん一貫することもよいと思う。「海から」視点が無意味になることもないであろう。だた歴史研究の新しいパラダイムを探求するこころみが、なかなか成果をだせないでいる現状のなかで、パラダイムそのものの(再)設計というようなものを期待したいものであった。

ところで網野さんの視点は、ぼくなりの造語でいうと、おもに内陸性原理によってなりたっている近代の国民国家というものにたいし、海洋性原理でなりたつ群島的、アーキペラーゴ的なネットワークを対比させ、そこに自由な人間と空間を認めようというものであった。それは共同体内的なものにたいし、間共同体的なものを措定することであった。

ただしこの批判精神は、20世紀中葉の状況にむけられたものであって、グローバル化の今、かならずしもその批判的な高揚を維持できるものではなくなってきているように感じられる。つまり網野さんが指摘するようなボーダレス、ネットワーク、の時代になったのだが、ではそれで人びとが拘束から解かれ、自由になり、幸福になったかというと、そうでもない。

あるいは国民国家がなくなるかというと、べつにゼロになるわけでもない。

ぼくは、内陸性原理/海洋性原理のバランス、というようなパラダイムがよいのではないかと思う。もちろん違う原理は、矛盾し、葛藤するのであるが、現実の秩序は、これらの2要素の微妙なバランスの上に成立する。あるときは一方が優勢になり、あるときは拮抗するし、その対立によっていろいろ災いも、幸福も、発生する。

ぼくは去年ボルドーについて論文を書いた(今年中には刊行されるであろう)。中世にはイングランドにワインを輸出し、18世紀には大西洋貿易で栄えたこの都市は、スペイン人、ポルトガル人、イタリア人、オランダ人、そしてもちろんユダヤ人を含む外国商人もいる多国籍複合的な都市共同体を形成していた。そしてそれとフランス王国、フランス国家は別の法人格である。さらに前者は海洋性原理の都市共同体であり、後者は内陸性原理の秩序である。両者は、時に対立し、時に妥協し、共通の利益をさぐってゆく。

またラ・ロシェールもそうである。この大西洋沿岸にあるプロテスタント通商都市は、通商によって巨万の富をえて、共和国化し、ほとんどフランスから独立しそうになった。このオランダ化を恐れたフランス王国は、17世紀の30年代ごろ、ここを制圧してしまう。兵糧攻めにより3万人が餓死したといわれている。この時期の王国は、新大陸にも領地をひろげていたので、海洋性原理をもっていたわけだが、しかし基本的には大陸に根拠をもつ内陸性原理の国である(だから植民地戦争においてイギリスの敗れた)。

興味深いことに、ラ・ロシェールの悲劇がおこったまさに同時期、オランダ商館は平戸から長崎出島に移動され、徹底した管理下におかれる。これは海洋性原理/内陸性原理の葛藤が同時期に違う場所でおこったものと解釈できる。

などということをバネルディスカッションを拝聴しながら考えていた。

|

« アンキャニーな輪郭 | トップページ | 「歴史的建築リストの可能性」 »

建築論」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/424713/31121690

この記事へのトラックバック一覧です: 「海から見た都市と建築」:

» 日経225mini [日経225mini]
日経225miniは株式投資のように、銘柄選びが必要なく、少ない資金で投資できるので、主婦やサラリーマンに人気になっています。日経225miniのしくみやメリット利益の上げル方法を紹介したブログです。 [続きを読む]

受信: 2009.08.27 16:34

« アンキャニーな輪郭 | トップページ | 「歴史的建築リストの可能性」 »