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2009.01.18

『OURS:居住都市メソッド』をいただきました

これも昨年末にいただいたものです。かなり遅ればせのお礼ですが、ありがとうございました。

これは横浜国立大学大学院/建築都市スクール"Y-GSA"の報告書である。

海外(とくに英語圏)では建築スクールが、そこで展開された建築論、サーヴェイ、学生プロジェクトをまとめて刊行することはある。しかし日本で本格的なものはここが最初であろう。

横国のこのスクールは日本で最初の本格的なアーキテクト・スクールとして注目を浴びている。とくに(ぼくのような)地方の同業者は、これであるていどスタンダードができるのではないか、などと固唾をのんで見守っている。ほかの関係者たちも同様であろう。将来的には、建築系大学院は、研究大学院、設計教育スクール、総合型、と3極くらいにパターンがわかれるのではないか。

徹底的にリアリティをもたせ、しかも批判的にかつ提案型のプロジェクト展開は、まさにヨーロッパ型ともいえるし、ある意味ではそれ以上かもしれない。

『OURS:居住都市メソッド』なる報告書は、パリ市都市計画アトリエがだしている「パリ・プロジェ」などを思い出させる。こちらは官製プロジェクト広報なのではあるが、しかしプロジェクトそのものよりも都市の分析をきわめてビジュアルに示しており、プロジェクトというよりは都市そのものを知るために役に立つ。横国の報告書も、そんな意味を兼ね備えている。

個人的に面白かったのは「関外歴史地図」というような、時間軸と空間・項目軸からなるマトリクスに重要項目をプロットし、データマップ、データスケープを示しているものだが、これはすでに歴史叙述になているからだ。そしてこの方法論は、経済動向のみならず、反映された都市計画、地域の姿、などがこの歴史空間のなかにどのようにオーバーラップしているかを示している。

ぼく自身も、たとえば、ある都市の中心地区の1670年から1730年までの同様なマトリクスに、重要項目をプロットして整理すると、個々の項目を検討していたときには気がつかなかった横の連関に気がついて、全体を把握するにはほんとうにいい。だからこれは歴史家にとっても利用可能な手法である。

またパリの中心市街地の研究で、中世における土地所有と経済動向の相関関係にかんする分析がある。つまり好況だと、地価が高騰し、土地は細分化される。不況だと、地価が下落し、土地は買われて、買い足されておおきな敷地となり、一筆あたりは広くなる。その動向が数量的に展開される。こうした土地の動向のうえに、建築がなされ、スタイルが選択され、間取りが選択される。こうした下部構造から上部構造までがいっきにイメージできるようになっている。

都市の把握とはそういうものであろう。横浜の新機軸は、ぼくが知っているパリの例とよく似ている。

もうひとつこの報告書の特徴は「プロジェクト」を手がかりにしたアプローチだということだ。従来、都市史・建築史では「建築のイデア」「都市のイデア」がどうであったかが探求の対象とされてきた。しかし「イデア」はスタティックなものだし、現実の雑音にみちた都市の挙動を反映しない。

しかし「プロジェクト」はそれぞれに輪郭があり、主体があるていどはっきりしているし、批判性もある。こうしたさまざまな「プロジェクト」が積層したのが現実の都市だし、建築スクールはそこの新しいプロジェクトをさらに展開することで、現実や歴史と対話しようとしているのである。

ただし「プロジェクト」はいわゆる現行制度での、予算や主体の輪郭がはっきりした「事業」のことではない。もうすこし幅があるものである。

じつは「プロジェクト」中心に都市をみてゆこうという試みを、この秋に書いた論文のなかでやってみた。建築史・都市史の学術論文としてである。今年中には出版されると思うので、みつけたら読んでください。

というわけで『OURS:居住都市メソッド』はたいへん面白かった。パイオニアとして注目されているけれど、アプローチはとてもオーソドックスで重要だと思う。

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