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2009.01.13

「モダニズム建築」というメタ問題(2)Ch.ジェンクス

今朝はコーヒーをきらしていたので、近所のスーパーまで買いにいって、ヨーグルトも野菜も調達して、ついでにむかいのパン屋で焼きたてのものを買って、朝食をいただいたものです。朝食も朝になって考えればいい。便利。商店街ばんざい!

それから授業の準備。なぜか1年生を相手に「80年代の建築」について話すことを請け負ってしまって、あわててパワポをつくる。この年代といえば、ポストモダン、デコン、ハイテクの三題噺でしょうねえ。ということで"a+u"のバックナンバーなどをぱらぱら見ていたのです。

で、ぼくは建築の神さまはいるんじゃないかと思ったりします。つまり"a+u"誌の特集号で、チュールズ・ジェンクス著『ポスト・モダニズムの建築言語』(1978年)ですが、そこに「モダニズム建築」という表記が、訳語として登場するのです。「モダニズム建築」を検討せよ、という神のご意志なのではないか。

なにごとも初出は重要です。ついうっかり「モダニズム建築」と書いてしまった、などという勢いで書かれてしまい、忘れられたり、結末のない表記はそれまでにもあったかもしれません。しかし著名で重要な批評家が、自分のしっかり構築した考えにもとづいて書いたものとしては初めてでしょう。

まず、問題は翻訳です。書名ですが、原著では:

Charles Jencks, "The language of Post-Modern Architecture", Academy Editions, London, 1978

これが

チャールズ・ジェンクス著『ポスト・モダニズムの建築言語』

と訳されています。いまからちょうど30年前です。原語にはなかった「イズム」が挿入されている。なぜか?

翻訳者はたいへん高名な現役の建築家だし、アメリカ建築を知り尽くしている人なのです。この意訳については、ご本人に説明していただければいちばん明快でしょう。しかしぼくは糾弾したいわけではないし、直接の意図よりも、こういう意訳が成り立つ背景や、歴史的な構図を考えたほうがいいとおもっています。だからかってに解釈します。

直訳すれば「ポスト・モダン建築の言語」です。なるほどこれではすわりがわるい。

まずそもそも英語です。ジェンクスの表記そのものに工夫がうかがえます。

Modern Architectureとは当時すでに一般的な概念であり、近代建築運動を支援するためにペヴスナーらが提唱し、研究によってしっかり跡づけた概念です。ですからジェンクスの表記は

(1)Post- "Modern Architecture"とも解釈できる。つまり「近代建築」が終わり、そのあとにくるもの、という意味です。それは近代建築の成立を歴史的に考えると、間違った歴史観ではない。ハイフォン(-)はここでは重要です。

ところが、仮に、

(2)Postmodern Architectureとしてみると、まだ確立されていない、これから確立しようとしているPostmodernという形容詞を使わざるをえない。これは言葉の流儀に反する。

で、 Post-Modern Architectureというのは、(1)と(2)の折衷であり、なかなか巧妙です。

しかし翻訳はさらに先を読もうとしている。

「ポスト・モダニズム」なる主義がすでに確立されたような書き方です。そこには「近代建築」の終焉とそのあと、というような意識よりも、「近代建築 Modern Architecture 」という(アートにおける印象派、デスティルのように輪郭のはっきりした)カテゴリを使うのではなく、それが「モダニズム」と言い換えられている。

ここでも「ポスト・モダニズム」とはじつに曖昧な表現であって、

(1)ポスト・「モダニズム」→モダニズムの終焉についての意識が強調される。

(2)「ポストモダニズム」→ポストモダニズムなる主義がはっきりあるかのよう。

(3)「ポスト・モダニズム」→上記ふたつのどちらかでもとれる。

これらの翻訳作業は、意訳だ、誤訳だということではありません。それは外国文化を受容するさいに日本人がいだくあるメンタリティを体現しているのではないか、それはほとんど、「近代についての日本人の精神史」になるようなことではないか、とぼくは予想しています。前項にコメントしていただいたユーイチさんも、話題貧困の現在、「モダニズム建築」はいい話題ではないか、と指摘していただきました。そうなのです。これは単純なあげ足とりではなく、私たちのリテラシー、私たちが母国語をつかうときにあまりに自明なので意識しないリテラシーを再考するよいチャンスです。

なにはともあれ「モダン・アート」ではなく「モダニズム芸術」と、「モダン・アーキテクチュア」ではなく「モダニズム建築」と表記したがる日本人の習性というか、精神構造がある。それをダメだダメだではなく、クールに解き明かすべきでしょうね。

・・・今日は授業の準備、委員会、ミーティング、書類の処理とてんこ盛りなので、続きはまたにします。よい一日を。

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