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2008.11.15

大腰筋のこと

これって「リハビリ」建築ブログだよねえ。ではその話題もしなければ。

整形外科、ピラティス、整体、マッサージ、水泳、水中歩行、お灸、民間療法などいろいろ取り組みました。もちろん経験者談、書籍、医者やインストラクターのご説教、WEB情報などさまざまに情報収集しました。

そしていまごろやっと、「大腰筋」は大切だというテーゼに到着した。

NHKが、半年前、オリンピック開催をにらんで、100M走のトップアスリートの大腰筋が並はずれてたくましいことを紹介していた。早く走るためのメカニズムが、よくできたCGで魅力的に紹介されていた。早く走るためには、地面をつよく蹴るだけではなく、蹴ってのばした脚を引き上げなければならない。そのために「大腰筋」を使うのである。なるほど。素人のぼくだけが知らなかった知識なのであろう。でも知ってしまうとたいへん有用。

「大腰筋」のおおきな特徴2点。

(1)上半身と下半身を「直接」結んでいる。脊椎と大腿骨とを結ぶ筋肉なのである。この点で、数ある筋肉のなかで例外的。だからいくら手や脚の筋肉を鍛えてムキムキになっても、ここが弱いと、上下がバラバラで、全身のパワーは半減する。最近のアスリートはいわゆる「体幹」のトレーニングを意識してやっている(というかフィットネスでもちゃんとメニューがある)。

(2)いわゆる「コアマッスル」である。インナーマッスル、深層筋肉、ともいう。なにしろ内臓のさらに奥、直接脊椎にくっついている、コアーな筋肉なのである。ただ、四肢の筋肉とはちがって、この筋肉を使っているのだという実感がなく、気づきにくい。だから意識しないと、加齢とともにどんどん弱くなってゆき、運動能力を低下させ、身体に障害を発生させることとなる。

で、短距離走にとっては足を引き上げる機能で重要なのだが、リハビリにとって重要な点はこのコアマッスルが「骨盤」の角度を決め、安定させるという点である。骨盤がふらふらして、角度が悪いとさまざまな障害の原因となる。

つまり身体を支え、安定させる筋肉だ、ということ。

ここまで考えて気が付いた。これまでの身体/建築アナロジーというのは結構いい加減であったのではないか。つまり19世紀の知識における身体、建築なのであって、21世紀になると身体についても建築についても認識はどんどん展開する。だからアナロジー形式そのものをチェックしなければならなくなる。

じゅうらいヴィオレ=ル=デュクは建築を支持/被支持の二元論で考えた。これは身体の骨格/内臓・筋肉・皮膜という構図が下敷きになっている。ル・コルビュジエのドミノ理論も構造体と空間パーティションをべつべつに考えるのだが、これは身体を骨格/皮膜とする考え方だ。

つまり19世紀的(ル・コルビュジエはじゅうぶん19世紀的だ)な考えかたにおいては、骨=支えるもの、である。これがたとえばRC構造に応用されて、ラーメン構造は骨格である、間仕切り、設備、家具などは内臓や皮膜のようなものである、という考え方だ。

でもこういう建築論は、21世紀になってだれでも知っているようなフィットネス理論とさえちがうようだ。身体を支えているのは「筋肉」である。骨格はむしろ「支えられる」ものである。

つまり筋肉という応力を発生させるものが、重力に対抗する本質的存在なのである。その意味で筋肉が身体を支える。では骨格はなにをするのか。それは「筋肉によって支えられる」という別の、重要な機能を果たす。つまり筋肉は、骨格を経由して、身体を支えているのである。あるいは骨は、筋肉が発生させる力の媒体、メディア、である、ともいえる。

だから理論的には、純粋な骨格は、いわゆるピン構造であり、いかようにも変形しうる。骨格だけでは身体は安定しない。そうではなく、身体は、多様な筋肉が展開する応力の、さまざまなベクトルの微妙なバランスのうえに、安定している。

リハビリにおいても、さまざまな整体、民間療法において骨盤の重要性はじゅうぶん認識されている。骨盤のズレやゆがみを矯正する療法もいろいろだ。しかし多くは、骨盤に直接働きかけて、直そうとしている。しかしぼくの愚測では、一時的な効果しかないであろう。それは筋肉をすこし無視しているからである。

最近の医療の情報化はすごいようで、ぼくのような末端的存在であってもWEB上で、骨格に多様な筋肉がとりついている様子を、とてもリアルに監察することができる。骨は、あちこちの筋肉に引っ張られ、浮いているように見える。さまざまなベクトルが総和され、ゼロベクトルになっている。検体ではなく絵でこれだけ理解させるのはたいしたものだ。

そんなCGをみて感じるのは、骨は自律しているのではなく、筋肉システムを中継しているのだ、ということ。骨が硬いのは、筋肉が発生させた力を、なるべく忠実に伝えるためだ。そして身体は、骨ではなく、重力や筋力の多様なベクトルがうまくバランスをとることで、安定するのである。その一例が大腰筋であり、これが弱ると、歩行も困難になり、寝たきり状態にちかづく。ある村で高齢者に大腰筋トレーニングをほどこしたところ、寝たきり患者が激減し、総医療費も半減以上であったという成果が報告されている。

だとすれば建築/身体のアナロジーなんて成り立たないのではないですか。骨=柱梁は短絡的すぎるようだ。地震で崩壊する瞬間くらいは、成り立っているかもしれない程度であろう。

でもさらに一考。

最近の構造設計家がデザインした魅力的な立体構造物は、それを複雑な骨格ではなく、「きわめて錯綜した、しかしIT技術により高度な安定が設計された、筋肉系」として解釈してもいいのではないのですか。もともとアナロジーなんだし。

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