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2008.05.20

「建築的価値」はこれからのトレンドになってくれるか?

「建築的価値」という言葉は、ありそうでまだまだない言葉です。

しかしこれが定着することが建築界にとってはいいことと思われます。現状をざっと眺めてみましょう。

文化庁のサイトで、制度の言葉を見てみます。日本の文化財行政での位置づけがわかります。たとえば重要文化財(建造物)とは「歴史上,芸術上,学術上価値」が高いものという説明です。指定基準には「価値」という述語は一部にのみかかわり、「優秀なもの」という表現と混ざっています。で、なににおいて指定されるかというと、意匠な優秀さ、技術優秀さ、歴史的価値、学術的価値、それから流派的又は地方的特色において顕著なもの、という5項目です。

登録有形文化財登録基準は、建築物をふくむ工作物一般が対象ですので、歴史的景観や、造形の規範、といった曖昧な基準にとどまっています。しかしいくら景観についての研究が進んでも、少なくとも建築という日本においては1世紀以上の長い学問と実践の蓄積のある分野が、景観のなかに解体され解消されるということはありえなく(欧米ではなおさらそうですが)、建築的価値というくくりはスローガンではなく実体なのです。

ともかく「建築的価値」という表現は、公式にはまだない。たぶん芸術上、学芸上の価値というもののなかに込められるのでしょう。まだまだです。

つぎに「建築的価値」でgoogle検索してみよう。95万件ヒットだが、「建築的価値」と連続的・一体で使われているのは例外的です。

例としては富岡製紙工場のHP、心斎橋大丸のファンサイト、建築家のいえづくりサイト、日土小学校校舎の保存要望書(歴史的・建築的価値)、「壽丸渡辺家住宅の建築的価値」ぼくのサイト(19位は立派)、シルバーロッジ、韓国観光局の世界遺産サイト東京駅保存インタビュー大阪府庁本館の立替えについて、建築学科の旧枢密院庁舎の建築学価値についての文書、・・・など上位50件のなかで10件ほどです。また建築や保存の専門家が意図して使っているのは6~7件ほどと思われます。

これまた世の中を山寺から眺めるような言い方で申し訳ありませんが、意識の高い例外的な人びとが「歴史的価値・建築的価値」と2項並立でいうようになった。つまり「建築」そのものが独立した価値体系であり、建築にも独自の審級(価値や意味を判断するために固有のモノサシ)がある、ということを主張しはじめているようです。

英語圏では『建築的価値を判断する』といった文献が2007年に出版されており、意外とと遅れているなという感想をもちました。しかし英語圏でそうなら、これからのトレンドだろうと思われます。

もちろんこうした文脈で言及すべきはフランスだと思います。フランスにおける歴史的建造物の概念は、公式には、その歴史あるいは建築に特筆すべき点があるので公益のために保存すべきもの、というような規定があります。

言い換えると「歴史的な価値、建築的な価値、どちらか」があれば歴史的建造物なのです。

イタリアやフランスでは、建築家はルネサンス以来芸術家としての立場が認められていたし、フランスでは17世紀から建築アカデミーが、絵画・彫刻アカデミーからは独立してありました。また19世紀には建築史学研究もすすみ、建築を歴史的に学問的に研究することの膨大な蓄積ができてきました。だから20世紀になって保存の法制を考えるときに「建築的価値」という表現はごく自然に出てきます。

日本はこうした伝統はきわめて浅かった。しかし昨今の動向を観察すると、すでに書いたように、「建築」独自の価値体系があるという方向に流れてゆくと思われます。

つまり以前は、建築はたんなる構築物であるが、それに歴史的な価値や、文化的な価値が付随すれば認められた。それは「この建物は、江戸時代の歴史を彷彿させるからいい」や「この建物にはすばらしい装飾がほどこされるからいい」といった感じの判断でした。

しかしある建物が「建築的価値」によって認められるということは、建築固有のスタイル、主義、思想、理念などがその基準となりうる、ということです。つまり建築関係者が、建築について思念し、思索し、手で構築し、技術を展開し、といった建設にかかわるさまざまな営みが、それぞれ創造的であり、価値あるものと認定されることへの道を開く、ということなのです。

いままでは文化、芸術、歴史といった濃厚なソースを、建築というソース吸収食材のうえにかけていた。これからは建築もその奥の深いソースに仲間入りできるかもしれません。

「建築的価値」という言葉の意味はとても大きいと思います。それは建築を、文化、芸術、歴史などといったこれまでの上位に審級を頼らなくともいいからです。あるいはまちづくりや地域再生といった(それはそれで大切ですが)プログラムに位置づけないと建築が生かせないような、ことがなくてもよくなるからです。

さて素描ついでに、そのうち「歴史的価値」と「建築的価値」の関連にも言及してみましょうか。

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