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2007.11.14

【講義草稿】フランスにおける「遺産」概念

・・・基礎的なことに始終しますが。

【1】フランスそのものが遺産であると称している

 フランス都市計画法典では「フランス領土は国民共有の遺産であるLe territoire français est le patrimoine commun de la Nationと定められている。これは革命以降200年にわたる文化財・都市計画政策の歴史的成果であろう。

 フランスには文化財がいっぱい残っているから恵まれているねえ、の理解は第一歩としても、歴史的な解釈が必要である。革命の理念をとおしてみるとよくわかる。つまり王、貴族、教会が占拠していた領土とその上の不動産物件が、国に(つまり国民に)渡された。であるから「国民」共有なのである。共和国理念ともいえる。もうひとつは創造し、制作する人間の本性一般への尊重であろう(これはおいおい考えます)。 

 法制度以前に、哲学において遺産も都市計画も一体であるフランスのように、日本がなることはないであろう。国民共有とは公益のことであり、私権の制限も意味するのであるから。それにたいして日本は私権を尊重する国家であるから。

【2】法における「遺産」概念の登場

 遺産法典(Code du patrimoine)の法典(Code)とは、それぞれの法(loi)を体系化したものである。新しい法律の制定ではない。それらの関係を定めて、全体としてひとつの法体系をなすようにしたものである。

 シラク大統領の時代、2004年に、この法典は定められた。したがって文化遺産、建築遺産などと断らなくとも、たんに遺産といえるようになったのは、この法典ゆえである。ちなみに日本では単独で遺産を云々する法律はないから、日本で「遺産」単独で呼べるのはフランスをはじめヨーロッパの動向をふまえてのことである。

 法典は7書からなる。1913年の歴史的記念物法(2005年の政令による改正された)。1941年の考古学発掘法。1979年のアーカイヴ法。1992年の納本法。2001年の予防的考古学法。2002年のフランス博物館法。2006年の著作権法改正、情報関連法。

 法律の名称からわかるように、最初は古建築だけを考えていたが、そののち敷地、地域、文書、景観とその概念が広がってきた。最終的にはそれらを遺産という概念でまとめた。フランスでは1970年代に遺産概念が拡大し、建築だけでなく、自然、景観、あるいは方言そのもの、も遺産と考えられるようになった。

 したがって歴史的記念物の概念がなくなったのではない。それはより上位の遺産概念の下位に位置する、個別の概念のひとつとして位置づけられている。

 また都市計画法典では、「フランス国土は国民共通の遺産である」と定められている。

【3】ではあらためて「歴史的記念物Monument Historique」とはなにか?

 フランスでは歴史的記念物(以下にMH)に指定され登録されるということは、その歴史的価値あるいは建築的価値において顕著である建物を守るということを目的として、「公益に従属する」ことを意味する。

 ところで「公益に従属する(拘束される)」(この訳語は公式のものではない)とはなにか?

 「公益に従属されること」とはフランスでは、都市計画法典に規定される地域都市計画において規定される行政的拘束に従うことである。つまりMHに指定された時点で、公的なものとなり、都市計画に従う。

 この「公益」には4種類ある。

(1)遺産(歴史的記念物とサイト)の保護という拘束

(2)資源や施設の使用にかんする拘束

(3)国土防衛にかんする拘束

(4)公共衛生と公安にかんする拘束

 文化遺産であることは、国防的必要に匹敵する。公益に拘束されるということは、私権が制限されるということを意味する。また都市計画がすでに文化財の保護をあらかじめ内包している。(日本では、文部科学省が指定するものが文化財であるという定義である。したがって国交省が管轄する都市計画とはまったく関係がない。)

【4】フランスは自国の文化財制度をいかに普遍化したか?

 1830年代に内務省内に「歴史的記念物委員会」が発足し、1840年代に記念物目録が出版されはじめた。

 1841年に、危機に瀕した歴史的建造物を保護する法律ができる。

 20世紀初頭、保存は点的保存から面的保存に進化する。

 1921年、知的共同国際委員会(ユネスコの前身)においてアンリ・ベルグソンは文化遺産の概念を主張した。

 1945年、ユネスコ設立、本拠はパリ。最初は有形文化財が対象。

 1972年、世界遺産のリストを作成。

 1992年、日本流にいうと無形文化財のリストListe Memoire du mondeを作成。しだいに祭典など、無形のものも遺産として考えられるようになった。

・・・この項はやがて大幅改訂となるでしょうが、とりあえず投稿しましょう。

 歴史的記念物の概念はまず、中世建築の評価からはじまった。今日では遺産概念は党派に関係なくすべての文化遺産に適応される。しかし国民文化という概念を中心として19世紀が展開したからには、この原点をまず押さえておかねばならないであろう。

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