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2007.10.08

アルカンレーヴという建築センター/ボルドーより

 ル・モンドWEB版の10月6日に、ボルドーの建築文化センター「アルカンレーヴ Arc-en-Reve」に、新しい所長が選出されたことが記事になっていた。このポエティックな名前は「アルカンシエール Arc-en-ciel=虹」を意識したものであり、夢の架け橋といったところだろうか。

【抄訳】

 「創設して25年、お金に苦しみつつも、新しい所長である。このアルカンレーヴはフランスでもすこぶる活動的な建築センターであり、地元に根ざしつつ、国際的にも存在感がある。25周年を祝うかのように、フランス文化界において存在感のあるフランソワ・バレをそのヘッドに選んだ・・・

 バレのキャリアはボルドーで始まり、文化省における初代の建築・遺産局長となっt。そしてメディアではそれほど知られていなかったセルジュ・ゴルドベールの後任となった。バレの人脈と社交能力は、この建築センターがふたたび活性化されることに貢献するであろう。

 このセンターを創設し指揮しているフランシーヌ・フォールは『彼が私たちの計画を実現してくれることでしょう』と期待している。アルカンレーヴは現代建築の展覧会や討論会の場であったが、いつも、地方ということで不利であったり、資金も不足がちであった。『いつまでも続くと保証されているわけではありません。展覧会を開くことも急ぎの課題です。3年の準備のための資金も必要です』とフォール夫人。

 10月3日のプレス会見で、バレ氏はもっと国や自治体を『理事会にはいってもらって』巻き込むつもりであると語った。それだけでなく財政的にも、である。アルカンレーヴの予算計画によれば、予算は年150万ユーロ。うちボルドー市が63万、国が16万、都市共同体(*ボルドー市とその周囲の自治体がメンバーとなっている広域都市計画のための組織)が10万ユーロを出資する。メセナ、協賛団体などがさらに援助する。『自分で予算の40%は見つけなければなりません』とフォール夫人は指摘する。

 新しい所長は、県、地域県に請願し、国と市にさらに出資を働きかける。国を代表して、建築・遺産局長のミシェル・クレマンは『予算の余裕は豊かではない』と強調する。市長アラン・ジュペはアルカンレーヴを支持すると再確認するが、『ほかの市町村がどうするかも見たい』ともいっている。

 中身にかんしてはバレ=フォールの二人組は、『専門家だけでなく大衆に向けた教育的内容について尽力する』意志をはっきりさせた。建築展にとってはいつもそれが暗礁となるものだ。ボルドーだけではない。」

【解説】

 ・・・というようにルモンド紙だから厳しいことが書いてある。フランス経済の調子はよくないから、文化も情報発信も苦難の道であろう。しかし、である。日本に置きかえるととんでもないことである。なにしろボルドー市の人口30万人ていど、都市域全体でも70万人というコンパクトな地域の建築文化センターで、年間予算2.6億円。市から1億円。国から3000万円、など。どれも「!」をつけたくなる。

 フォール夫人がいうように自助努力が40%ということは60万ユーロ(=1億円弱)である。これを企業協賛などで埋めている。ということは、1企業1000万円のオーダーだろうか。お金の話は下世話なものだが、しかし関連団体の関与の仕方というものを比較するにはいい物差しである。

 日本との違い。日本の建築文化事業は、1企業1文化事業である。これは昔のプロ野球とおなじ構図である。大企業が集中する、東京のみに文化も集中する。しかし地域密着型で複数スポンサー制にすればJリーグ的になれる。企業ごとの、宣伝費、広報費、社史編纂費などをひとつに集約すれば、地域の文化という太い流れをつくることができるだろう。しかし日本は文化もお家(企業、団体・・)ごとのお国柄だから、とうぶんは無理だろう。

 去年ボルドーに滞在していたころ、フランス最古にして地方最大の書店モラで、このセンターが刊行した書籍の充実ぶりに、地方でこんなことまでできるのだと感心したものだ。中世においてはイギリス領であり、黄金の18世紀もすぎ、ヨーロッパのなかでは比較的停滞している地方にあって、ボルドーの人びとはプライドが高く、文化にも力をいれている。日本の地方がいまや文化遺産頼りになってしまって、新しい建築文化をおこそういう社会的文化的インフラがほとんど欠如しているのとは対照的である。

 協賛団体には有名なブイグ社もあるように、やはり不動産会社、ゼネコン、金融(供託金庫)など建築・建設関係が多い。

 アルカンレーヴのHPである。 http://www.arcenreve.com/

 活動内容は、建築センターとして特段に特殊なものはない。展覧会としては今、妹島和世+西沢立衛展をやっているようだ。講演会にはドミニク・ペローが秋にくるそうである。出版も建築家のモノグラフが中心だが、ボルドーの都市計画をとりあげたり、情報発信をしている。ヨーロッパ都市では普通であるが、固有の情報発信として、そこの都市計画そのものが最良のコンテンツである。すなわち都市圏全体の計画がどうであるか、さらにそのフレームのなかに、具体的などんなプロジェクトがあって、それぞれどんな目的、予算、担当建築家、社会的・文化的位置づけがあるか、といったことが紹介されている。都市がどのように、どんな意図でこれからできてゆくか、市民的興味でアクセスできる。地方のこの種のセンターはそうした役割をしっかりはたしている。

 やはり短期滞在中にテレビで、ボルドー美術館に就任した新しい館長のインタビューを見たが、最大の話題は財政であった。つまり(アメリカの大学におけるディーンのような)、人脈、金脈、集金能力がこうした所長には求められる。たとえば国とのパイプの太さ。フランス社会における近年の大変化のひとつであろうし、グローバル化の帰結であろう。

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