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2007.07.11

Nasrine Seraji, "Logement, Matière de nos villes", Picard, 2007---- ヨーロッパのハウジングを読み解くための枠組み

  パリのアルスナル博物館で、ヨーロッパのハウジングに関する展覧会が開催されています。最新のプロジェクト(日本からはアトリエ・バウワウが参加している)が、1世紀にわたるさまざまなプロジェクトの最後を飾るように展示されています。この博物館には、常設展としてパリ市を構成してきたさまざまなプロジェクトが通史的に理解させるようになっていて、パリ固有の歴史軸と、ヨーロッパの普遍的住宅供給史というふたつの文脈がクロスするような展示となっています。対象とする目下のプロジェクトは展示全体のごく一部です。常設展と企画展の関係づけかた、企画展のなかの対象と文脈の関係づけかたのなかに、これを論じようとする企画者がいかに広いパースペクティブをもっているかがわかります。歴史家であるぼくにとってはたいへん評価できるやり方です。日本にいると、現在と過去、同時代と歴史がいつも画然と区別されていて、歴史家は特殊な存在とされがちです。しかし現在をも歴史の一断面として位置づけるこうした方法にはたいへん勇気づけられます。

英仏バイリンガルの図録"Logement, matiere de nos villes"は、20世紀と21世紀の代表的なハウジングの例を収録しています。ハワードの田園都市、ガウディのカサミラからはじまってタウトのブリッツ・ジードルング、ル・コルビュジエのユニテ・ダビタシオンを経由して、21世紀のプロジェクトまで解説されています。

Img_4911_1_5     図録をめくって感じるのは「ヨーロッパ的な枠組み」がやはり実体なのだなあということです。19世紀に市民社会が成立して、最初は労働者にいい生活環境を提供することが社会の課題だった。19世紀末から国家が介入しはじめ、国の政策課題となりました。20世紀後半からこれが解体しはじめ、ソーシャル・ハウジングは民営化され、あるいはリージョンの課題となります。さらにはパリ郊外の問題など、社会的棲み分けの問題としても共有されています。これらはヨーロッパの各国がまさに共有する諸過程であり諸問題であるということです。

 これはEU統合の結果ではなく、こうした共有の構図のうえにEU統合があることを見誤ってはいけません。去年、フランスにおける田園都市研究の第一人者のひとりであるベルヴィル建築大学教授トルニキアンさんのお話しを聞く機会があったのですが、20世紀の田園都市建設の際にも、行政や建築家たちの横の連携は活発であったようです。実際、建築家は同時代の他国のプロジェクトはほぼすべて知ったうえで、自分の仕事をしているといった状況であったそうです。アーカイブなどを調べても、ベネボロの文献にも紹介されていない国際田園都市協会、国際ハウジング協会(会議)といった名前がかなり初期からありました。

 日本人がヨーロッパの研究をする場合、やはり技術的な問題から国ごとに住み分けることになります。なるほど政策、法律、建築スタイルは国ごとにバラバラです。しかしそのことによってヨーロッパという共通のパラダイムをはっきりとは対象にできないことになっています。いろいろ考えさせられる展覧会とその図録です。資料としても有用ですが、ヨーロッパ的なパースペクティブを見るべきでしょう。

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