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2007.07.11

Magali Vène, "Bibliographia serliana", Picard, 2007----セルリオは建築書の出版をとおしてなにを探求したのか?

 マガリ・ヴェーヌ『セルリオ建築書の書誌学』(Magali Vène, Bibliographia serliana, Picard, 2007)です。著者は古文書学者であり、フランス国立図書館の管理員であり、とくに16世紀の文献が専門です。

 ルネサ070712_serlioンス最初の建築書であるセルリオのそれを対象に、そのそれぞれの巻のそれぞれの版の出版の経緯や、没後の出版、その影響について詳細に書いています。それだけでもセルリオの人生が描けてしまうかと勘違いしてしまいそうです。それが解説文となって前半を構成しています。本書の後半ではカタログとなり、それぞれの版の表紙とデータが示されています。

 セルリオは1537年にヴェネツィアで、計画された全7書(ウィトルウィウスにようになぜ10ではなく「7」かということについても詳述されています)第四書にあたる『建築の一般法則』を出版していらい、ヨーロッパ都市を転々とし、メセナをさがしつづけます。ローマではサン=ピエトロ聖堂担当であったペルッツィの弟子として建築を学び、そののちヴェネツィア、生地ボローニャ、フェラーラ、フォンテーヌブロー、リヨンなどです。しかしメセナに恵まれたかどうか、判断に苦しむところで、ヴェネツィア総督、イポリット・デステ、マルガリト・ド・ナヴァル、イギリスのヘンリー3世、カール5世、ボーランド国王などなど。またヴェネツィア、パリ、リヨンの印刷業者のだれそれとそりがあわなかったなど、本好きにとっては豊かな話題が提供されています。

 さて通説では、セルリオははやばやと建築書出版を天命と感じて、それに一生をささげたとされています。しかしほんとうにそうか、と本書を読みながら感じました。それはグラン=フェラールなどの例外を除き、彼は実際のコミッションには恵まれなかったが、建築書をとおして後世に影響を与えたので、そういうバイアスからそう評価されたのではないか、と考えたくなりました。

 ぼくの仮説は、まずペルッツィのもとで学んだ建築を展開するために、仕事を得ようとおもったが、まず自分の学識と設計能力を示してパトロンを獲得するために建築書の刊行を考えた。彼の建築書が、建築オーダー、建築平面、門、ルスティカなどのタイポロジーを確立した最初の書だとされていますが、それは自身の方法論的な能力を示すために、そうしたのではないでしょうか。富豪にも庶民にもあう住宅を設計できる、どんな仕事でも受注できる、といった能力です。また5オーダーのゲネスを区別するということは、都市門でも宮殿でも公共施設でも設計できるということかもしれません。

 しかし当初はどちらかというと手段であった建築書が、しだいに目的化してゆく。というのは各都市で彼はライバル建築家に負け続けています。ヴェネツィアではサンソヴィーノに、フランスでは実際の建築を担当するのはピエール・レスコーやドロルムになってしまう。イタリアではライバルが多すぎるのであえてフランスを選んだのに、です。

 こうした経由で、手段であった建築書出版が目的そのものとなってしまう。そういうことにしてしまわないと自分が崩壊してしまう、といった事情があったと想像したくなります。だから、これは建築書一般にいえることですが、書物は建築の代用ではなく、補完物でもなく建築の観念そのもの、建築そのものかもしれない。さらにいえば、日本人の研究者は前提がちがうとぼくは思っているのですが、建築書に展開された理論にもとづいて建物が建てられるのではなく、不純でノイズに満ちた建物をいくつもたててその試行錯誤の結果、純粋な理論と書物ができるのです。ですから理論と実践が食い違っているのはあたりまえで、むしろ期待すべきは、理論そのものの純粋さであろうということです。

 ぼくにこうした妄想をいだかせた本書を書いたのが、建築家ではなく古文書学者であったということが面白いですね。

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