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2007.06.29

建築と地域主義----レンヌで見えた断片

070629 建築における地域主義を考えるには、まず良い実例をあたることだろう。地域の人びとが、中長期的にかつ持続的に、そのことに自覚的であり、蓄積のあるような例。レンヌはそれを考えるになかなかいい対象ではないかと思われる。

 2007年6月某日、調査旅行のさなか、どこでそのポスターを見たか忘れたが、地元建築家の建築についての講演があるというのでおもむいた。その名はイアサント・ペラン、19世紀末から20世紀中葉にかけて活躍した人である。別の建築家のアトリエで所員として勤務したが、のちにその事務所の権利を買って所長職を引き継ぎ、住宅、教会、ハウジング、学校などを手がけた。地元の名士のための住宅もこなせば、低位家賃住宅も建設する。政治的な党派性は外部からは見えない。地域主義的とはいっても、基本的にはそれほどイデオロギー的にデザインを展開するようでもなく、アールヌーボー、アールデコ、禁欲的モダンといった大きな流れはそのまま受け入れている。それにブルターニュらしさを付加するといった地域主義である。それよりも経済恐慌のころからデザインがきわめてプアになっていくのが印象的であった。これは地域、パトロン、社会すべてが経済的に困窮していたのである。息子も建築家を継いだそうだ。つまり地域に根ざした建築家の家系の誕生というわけである。

 会場は市庁舎2階のホール。18世紀に建設された古典主義だが、パリの古典主義に比べると緊張感に欠ける。しかしスケール感はよい。講師は大学教授ではなく地元の文化財研究家ということであった。自信なさげな表情が印象的。聴衆はもちろん年配者が多く、そのなかにはペラン家の人びともなん人かいた。つまりお互いに顔を知っている濃厚な人間関係のなかで、設計の仕事、デザインの価値の評価、遺産としての継承がなされている。外国人としては難しい人間関係とは無縁で気楽だが、当人たちはそうでもないであろう。地方において、文化遺産を継承してゆくということは、そういうことであろう。

 レンヌの場合、アーカイヴの管理と蓄積、大学の出版会による情報発信など、文化インフラはとてもしっかりしている。であるから人口20万人ていどの小都市でありながら、日本の100万人都市以上の文化発信ができている。

 さて写真はそのペランが建設した20世紀初頭の住宅。地質学的にブルターニュ地方は花崗岩に恵まれており、それを使うことが地域性の主張となる。また屋根や窓のピクチャレスクな配置も同様である。このようにデザインによって地域性を表現するとは、批判性云々とは正反対のとてもベタなものとなる。このことが批評性を求める(とくに日本の)建築史研究者を遠ざけることになるのであるが、そこは料理の仕方であり、なんとかいいアプローチを考えたいものである。さらにいえば花崗岩云々は、近代人が再解釈した地域性である。なぜならレンヌの都市的伝統を考えるならハーフチンバーの都市住居こそが伝統なのであって、花崗岩をぜいたくにふんだんに使うということは、近代ブルジョワか中産階級の豊かな部分の人びとの、まさに近代的意識によって遡及的に再構築された地域性であり伝統性であることは容易に想像できる。

 敷地の場所は、歴史的中心街からはすこし外周にあたり、20世紀初頭に形成された戸建て住宅地である。現在は集合住宅のほうが多い。しかし郊外と呼ぶには都心に近く、小都市ならではの距離感である。戦後はさらに都市域は拡大し、周辺市町村と都市共同体を形成し、現在のレンヌ=メトロポリスの形成にいたっている。

 既存の都市からつかず離れず若干の距離を保った敷地に、地域の素材であることは確かだがではどれほど伝統を担ってきたか検証しなければならない花崗岩の住宅、という2重の意味の、微妙な距離。それはコンパクトな伝統的都市が、20世紀になってすこしずつ融解してゆくプロセスのなかで、逆説的に、ひとつの都市であることを再構成しようとする試みであるように思える。

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